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#05
ベルリンの街に
根付く文化と
スポーツの本質

 陸上トラックの活用法にも納得させられた。サッカーの試合となれば「余白」に過ぎない、両サイドのゴール後方にバルセロナとユベントスのロゴが存在感を放出している。
 日本のスタジアムで例えるなら、横浜・F・マリノスのホームである日産スタジアムあたりが似ているのかもしれない。
 日本では「大きすぎて観客で埋まらず、非日常感が作りにくい」「スタンドからピッチが遠すぎてサッカーが観づらい」と評されているスタジアムだ。
 サッカーファンの間でもお世辞にも好評とは言えない。しかし、チャンピオンズリーグ仕様のオリンピア・シュタディオンを見て感じたのは、どんなスタジアムでも工夫ひとつで観衆を魅了できるということ。それは、横浜スタジアムにも共通して言えることである。だから私は、各地の視察を重ねていたわけだ。
 試合前から両クラブの旗が舞う。
 一帯を占拠する熱狂的なサポーターが、これ見よがしに大きな旗を振るそれではなく、各々、客席から小さな旗を目一杯、振りかざす。熱心なファンも、ようやくチケットを手に入れられたファンも、全員が平等。愛するチームを応援する同志。バルセロナとユベントスの集合体がそこにはあった。
 大げさな後押しもいい。ただ強烈に自己主張せずとも、その場にいるだけで選手たちは力になるものだ。小さな旗を振るだけでもいい。首にチームのエンブレムが刺繍されているタオルマフラーを巻いているだけでも、応援団のひとりであることに変わりはない。
 「こういった細かいところにも気を配らないとダメだな」
 私は、ベイスターズの応援アイテムの参考にと、タオルマフラーを何種類も購入した。
 それまでは、野球、ベイスターズのマフラータオルは簡素な作りだった。これを機に、タオルマフラーはことあるごとに、チャンピオンズリーグのクオリティをベースにした。ファンとのコミュニケーションツールとして、様々な柄やメッセージやデザインが入ったものを発売する。「I ☆ YOKOHAMA」も根付く名物グッズにするために、豊富なパターンを発売するきっかけになった。
 ベルリンの街が、私に多くのことを気づかせてくれた。
 奇をてらっているわけではない。ビール、ショップ……それぞれが、自分たちで個性を模索し、具現化している。それはやがて、ベルリンの街の一部となり、文化として根付く。
 スポーツと街の在り方。その本質を、私はこの地で教えてもらった。

>> see you next week!

photo:Jun Ikeda

This week’s articles
#01 世界的スポーツイベントから学ぶ本場の味
#02 ミュンヘンの老舗醸造所がつくるお気に入りのビール
#03 心突き動かされたベルリンのライフスタイルショップ
#04 スタンドの余白に圧倒的存在感を放つビッグイヤー
#05 ベルリンの街に根付く文化とスポーツの本質

 

Data

使用チーム ヘルタ・ベルリナー・シュポルト・クラップ・ベルリン
所在地 ドイツ連邦共和国ベルリン
収容人数 74.475人
竣工 1936年(2004年改修)
工費 4.200万マルク(改修費2億4200万€)

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