#03
日本に必要なのは
「スポーツ観戦」への
意識改革
収容人員約5万3000人。ラグビーのみならず、サッカーやアーティストのコンサートなども開催されるクイーンズランドを代表するスタジアムが、ブルース(ニューサウスウエールズ州選抜の愛称)の水色、そして、クイーンズランダーのエンジか紫かどちらとも表現しがたい独特の色彩が交錯する。お世辞にもかっこいいとは言えない配色なのだが、この国独特の色使いはアメリカとは違う。粗野で素朴でパワプルなオーストラリアの良さ。私は勝手に、そのちょっとしたダサさを愛してしまう。私はオーストラリアが大好きなのだ、と再認識する。
煙幕が炊かれたフィールドでは、この国が生んだロックスター、AC/DCのハードなサウンドが場内にガンガン響き渡っている。そして観衆はすでにビールを煽り、相手を口汚く罵りながら、応援する選手たちをこのように後押しする。
「Go for it!!」
試合が始まれば、「とにかく進め!」「相手をぶちのめせ!」と大歓声が沸き起こる。そうかと思えば、彼らは「Thanks, Mate !」と、笑顔で会釈しながら観客席で試合に没頭している私たちを何度も立たせ、何人もが目の前を通り過ぎる。ビールを買いに行くためだ。
「おいおい。その間にクイーンズランドがトライを決めたらどうするんだよ?」
そんな心配などお構いなし。事実、ひとりのファンがビールを求め、席を外している間にクイーンズランドが得点を挙げ、そのことを伝えると「そうか。それはよかった」と、まったく後悔などしていないのである。
「まるで、野球場のようだ」
私は率直にそう感じたものだ。アメリカや現在の日本も、スタジアムではそこまで競技に執着していない。野球というスポーツをつまみに、大好きなビールを飲んで盛り上がる。まるで、巨大なビアガーデンのごとく自分たちの特別な時間と空間を満喫している。要はラグビーも、「スポーツのライブ観戦」をつまみに、観客同士で会話しビールを飲む。楽しい時間を過ごすために来ているのだ。
野球の場合はイニング間など、ファンからすれば比較的、時間を有効活用しやすいこともあるだろう。だが、ラグビーやサッカーのような決められた時間内で行う競技となると、その認識が皆無となる。40分ハーフという限られた時間を無駄にするまいといった意識に苛まれ、「一生懸命観よう」と、勝手にラグビーを厳かな競技と決めつけてしまう。
あるラグビー関係者の言葉が頭に浮かぶ。
「ビールが売れないんですよ」
「日本でのラグビー観戦は、ビールを飲む時間がないんですよ」
「日本では野球とラグビーは違うんです」
厳かに、ただ競技だけに集中させたいのであればビールなど売らなければいい。販売するのであれば、その競技をエンターテインメントにする努力をしなければならない。なんでも勝手に限界を決めてしまう必要が本当にあるのだろうか? 観客の楽しみ方の提案。100%勝った、負けたに関係なく、有意義な時間を過ごしてもらうためのアプローチ。それが、競技運営関係者がやるべきことのひとつなのだ。「日本はもっともっと、意識改革が必要なんだな」と改めて感じる。
私は以前からそれをずっと感じているし、実際にステート・オブ・オリジンを観戦し、さらに確信したものだ。
photo:Jun Ikeda
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Data
使用チーム | ブリスベン・ブロンコス (NRL)、ブリスベン・ロアー (Aリーグ)、クイーンズランド・レッズ (スーパーラグビー) |
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所在地 | オーストラリア連邦クイーンズ州ブリスベン |
収容人数 | 52,500人 |
竣工 | 1914年(2003年改修) |
工費 | 2億8千万オーストラリアドル (2003年改修時) |