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#01
現地を訪れた時に
沸き起こった
20数年前の憧憬

 屈強な男たち26人。あまねく全員がフィールドを疾走する。
 フォワードもバックスも、楕円形のボールを我がものとし、ゴールラインを目指しながら鍛え抜かれた体躯を互いに衝突させる。
 スクラム、モール。日本ならば当たり前のラグビーの見せ場である密集戦も、そこには存在しない。とにかくスピーディでパワフルなプレーだけが、ここでは彼らのアイデンティティとなる。26人全員が走れ、ボールを蹴る。そのタックルは屈強で速い。じつに素晴らしい。15人制とはまったく異なる、競技の魅力に驚かされる。
 今年7月、オーストラリアのブリスベン。サンコープ・スタジアムに訪れた私は、この国最大のスポーツイベントと表現しても過言ではない「ステート・オブ・オリジン」に触れ、突然、憧憬が沸き起こってきた。
 20数年前、私は大学を1年間、休学しオーストラリアのクイーンズランドにワーキングホリデーに行っていた。英語をまったく話せず、慣れない生活環境と異国の文化に、ごく稀にホームシックにすら陥ったこともあった。多くの人間がゴールドコーストに向かっていた時代。サンシャインコーストには私しか日本人はおらず、現地のオージーカップルとルームシェアしていたアパートメントの自室で、言葉がなかなか通じないなか、皆でしょっちゅうラグビーをテレビ観戦し、熱狂していたものである。
 そこには、いつだってNRL(ナショナル・ラグビー・リーグ)が放映されていた。ラグビーに造詣が深くない私ですら、その躍動感あふれるプレーに魅了されたものだ。
 そう言えば、ルームメートたちで開かれたハロウィンやクリスマスパーティでは、私はいつもクイーンズランド州選抜の愛称でもある「クイーンズランダー」の恰好をさせられていた。あの頃はその姿の意味を理解していなかったが、今、こうしてサンコープ・スタジアムを訪れると、やっと、オーストラリアのビッグイベントの一員になれたのだと実感する。

to be continued

  photo:Jun Ikeda

This week’s articles
#01 現地を訪れた時に沸き起こった20数年前の憧憬
#02 身に染みて分かったオーストラリアンラグビーの醍醐味
#03 日本に必要なのは「スポーツ観戦」への意識改革
#04 観戦の興奮は時代を超えてその人の記憶に残る

Data

使用チーム ブリスベン・ブロンコス (NRL)、ブリスベン・ロアー (Aリーグ)、クイーンズランド・レッズ (スーパーラグビー) 
所在地 オーストラリア連邦クイーンズ州ブリスベン
収容人数 52,500人
竣工 1914年(2003年改修)
工費 2億8千万オーストラリアドル (2003年改修時)

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