#04
天然サラウンドシステムが
スタジアムの
個性を表現する
およそ9,000人を収容できる天然の岩を生かした客席、ステージ越しから、遠くに広がるデンバーの街の灯りがかすかに見える。
アーティストの歌声とサウンドを、抗うことなく堪能していた私に、レッド・ロックスが囁いているような気がした。
そのままでいいんだよ――と。
音の設計を試みるのもありかもしれない。だが、そうなると現実問題として数億円もの設備投資をしなければならない。やるべきことが山積だった当時のベイスターズには難題である。ならば、と私は思いついた。
「屋外のスタジアム。切り立ったスタンド。この〝自然〟の姿を生かそうじゃないか」
日本の野球の面白さのひとつに応援がある。
ハマスタで言えばライトスタンドを陣取るホーム、アウェーチームのファンで埋め尽くされるレフトスタンド。それぞれの大声援が反響すれば、このスタジアムならではの「天然サラウンドシステム」が構築されるのではないか。レッド・ロックスを訪れた翌年のオールスター戦で、私はそれを確信した。
年に一度の球宴。この日だけは、贔屓のチームではない選手の応援が許される。いつもは口ずさむことのない応援歌も堂々と大声で歌うことができる。一人ひとりの生のサウンドが、レフトとライトで反響し合う。
それはまさに、ボールパークが織りなすレッド・ロックスだった。
「ハマスタの本領が発揮された」
私はベイスターズの社長と同時に、最上のサウンドを追求したかったひとりの人間として、真夏の祭典を堪能していた。
スタジアムの個性を表現するサウンドを構築することはできる。だからこそ、もっと、もっと音にこだわり、デザインしていけば、ハマスタを「音楽の聖地にできるんじゃないか」と、壮大な目標を打ち立てた。
「そのためには、ブルース・スプリングスティーンを呼びたいな」
私は、ただの音楽好きになっていた。
photo:Jun Ikeda
⚾This week’s articles
|
Data
使用チーム | −− |
---|---|
所在地 | アメリカ合衆国コロラド州デンバー |
収容人数 | 9,525人 |
竣工 | 1941年 |
工費 | 54,133ドル |