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#01
屋外の施設で
音が一番よく
聞こえる場所はどこか?

 スポーツの試合は、その多くが視覚に強く訴えかけてくる。
 まず、選手たちのプレーをはじめとする様々なパフォーマンスは大前提だ。そこに、スタジアムの構造や雰囲気、ファンの応援、大型ビジョンの映像、ダンスチームなどによる演出……。その集合体がチームを表現していると言ってもいい。
 果たしてそれだけだろうか?
 時に耳を澄ませ、聴覚でスポーツの、スタジアムの雰囲気を味わってみる。そのことできっと、それぞれの場所の違いがもっと、もっと分かってくるはずである。
 あ、このスタジアムはものすごくいい音を出しているな――と。
 スタジアムを盛り上げるための効果音、スピーカーから弾けるサウンド……。それらと、ベースとなる選手たちのプレーや、反響し合う応援席の声がどうミックスされるのかを計算する。それが、スタジアムの「音」である。
 サウンドもまた、スタジアムを、選手を、ファンを盛り上げる重要なファクターなのである。
 横浜DeNAベイスターズの社長時代、私は正直、横浜スタジアムの音響のクオリティに納得していなかった。
 わかりやすいところで説明すると、お立ち台での選手のヒーローインタビューだ。スタジアムに響き渡る彼らの声がハウリングする、あるいはディレーしてしまう。ハマスタには業務用の高価なスピーカーを導入していたから、音響をないがしろにしているわけではない。ただ、こだわりが少なかったのだ。スタジアムの「音」を計算し、そのクオリティを全体でコントロールする。サウンドをデザインする概念が不足していたのだ。
 そこで私は、有名アーティストの音響を手掛ける知人に相談した。すると彼は、はっきりとハマスタ(横浜スタジアム)の欠点を指摘してくれた。
 「スタジアム内に音を届けるためだけのスピーカーが設置されているだけで、音を設計しているわけじゃない。そこを改善すれば、本当にいい音がハマスタでも出せますよ」
 そう提言された私は、彼に尋ねた。
 「ハマスタのようにスタンドが切り立っている屋外の施設で、音が一番よく聞こえる場所はどこですか?」
 その問いに、彼は即答した。
 「アメリカに『レッド・ロックス』という野外ステージがあります」
 レッド・ロックス野外劇場――。
 聞いたことがある。いや、間違いなく私が知っている場所だった。

> to be continued

photo:Jun Ikeda

This week’s articles
#01 屋外の施設で音が一番よく聞こえる場所はどこか?
#02 時代を彩るレジェンドたちが奏でた音楽の聖地
#03 数億年の時を経て形成された大自然に響く音
#04 天然サラウンドシステムがスタジアムの個性を表現する

Data

使用チーム −−
所在地 アメリカ合衆国コロラド州デンバー
収容人数 9,525人
竣工 1941年
工費 54,133ドル

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