update

#01
地元ファンは
パブで飲むビールで
士気を高める

 ミシガン湖から届くそよ風が心地よい。
 「風の街」シカゴ。中心部から少し北上したイーストサイド地区は、シカゴ・カブスの色に染まっている。本拠地リグレー・フィールド周辺には、球団が創設された1914年当時から営業するパブなど店舗が軒を連ね、そのほとんどでカブスのゲームを流す。地元ファンは試合前のウォーミングアップとばかりにビールで士気を高め、試合が終われば同じように酒を飲み、余韻に浸る。
 メジャーリーグ「最古のスタジアム」、ボストン・レッドソックスのフェンウェイ・パークから2年後に誕生したこのボールパークを訪れたのは、私が横浜DeNAベイスターズの社長となって2年目だった。
 歴史を感じさせる正面ゲートを抜け、フィールドを見渡す。視覚を刺激させたのは、丹念に整備され、光るように生える天然芝ではない。37年当時のオーナー、ビル・ベック氏が考案したと言われる、外野フェンスを力強く覆うツタだ。リグレー・フィールドのシンボルを目の当たりにし、「このツタにボールが埋まったらどうするのだろう?」と私は困惑したものだが、その場合はスタジアムの特別ルールによりエンタイトルツーベースになるのだそうだ。
 さらにスタジアム全体を見渡す。クラシカルなスタジアムだけあってシート間のスペースは狭いが、私が訪れた時期は観客席の増設も進めている最中だというから、そのような懸案も解消されるのだろうと思った。そして、外野フェンスのツタ同様に、私の興味を惹きつけたのが、球場の外に林立するビル屋上に設置されたシートである。今でこそ「ルーフトップシート」の愛称で人気を博しているようだが、1990年代にビルのオーナーが球団の許可を得ず勝手に作り、ビジネスにしていたという。「売り上げの一部を球団に支払う」という約束で双方が和解。問題は解消されたと言うが、これもまた、地元のカブス愛を表すエピソードのひとつである。

> to be continued

photo:Jun Ikeda

This week’s articles
#01 地元ファンはパブで飲むビールで士気を高める
#02 スタッフたちに浸透しているホスピタリティの概念
#03 企業経営と改革に必要なのは年齢ではなく情熱だ
#04 魅力あるスタジアムをつくるための原点と言える場所

Data

使用チーム シカゴ・カブス
所在地 アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ
収容人数 41649人
竣工 1914年
工費 25万ドル

Map