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#05
情熱があるからこそ
人々の心に強く
印象付けられる

 ハマスタからムーブメントを起こすために、最も気を配ったのは仕掛けの「出し入れ」だった。例えば、閑古鳥が鳴いていた当初からオリジナルビール(ベイスターズ・ラガーやベイスターズ・エール)を販売しても、観客が少なければ当然、売り上げは見込めないし、口コミでの評判も期待できない。それどころか、「野球と関係ないことやってないで、まずチームを強くしろ! もうちょっと客を入れてからにしろ!」と、否定的なパブリックイメージが広まってしまう恐れがあった。
 グッズショップもそうだ。どんなに洗練された店内にしようが、オシャレにデザインされた商品を開発しても、チームの人気、認知度が低ければ意味が薄れ、それらのデザインも、本来ならセンスのある仕掛けも評価が下がってしまう。
 数々の演出だって当然、盛り上がらない。ベイスターズの経営と運営に携わるようになって感じたのは、日本のプロスポーツはファンの興味をそそる仕掛けが希薄なだけでない。野球に例えれば、〝ボール1個分の絶妙な出し入れ〟のアプローチが欠落していた。
 ハードを進化させ、ソフトを改革する。スタジアムにまつわるすべてをパラダイムシフトさせていく。でも、そこに情熱がなければ人には伝わらない。本当の面白さやスタイリッシュな佇まいは、情熱の上に醸し出される「空気」みたいなものだ。単純に表側をなぞり、ハードやソフトを改修すれば生まれるというものではない。ブランドの空気というものは、情熱の上に〝ボール1個分の出し入れ〟を常に繰り返し、人の心を掻き立て、踊らされながらも心底楽しんでくれる時に、化学反応のように生まれるものである。
 「自分たちはこれをやりたい。でも、それを今やってファンに響くだろうか?」
 「もしかしたら、今の空気はまだ違うんじゃないか?」
 「今の空気をもっと、もっと掻き立てるものはなんだろうか?」
 常に自問自答を繰り返し、柔軟に迅速に、かつ大胆に形を変えながら挑戦し続ける。やがて、そこには心が生まれ、その蓄積がファンやお客さんや地域に伝わる。情熱があるからこそ人々の心に強く印象付けられる。
 横浜DeNAベイスターズになってから、横浜スタジアムは変わった。
 「絶対に無理だ」と言われ続けていたスタジアムのTOBに成功した15年に、174万5,187人の観客を動員。翌年には191万9615人とその数を増やし、チームも球団初のクライマックスシリーズ進出を果たした。そして、197万9,446人を動員した17年には日本シリーズを戦い、今年はハマスタ初の200万人越えを達成した。
 19年のシーズン開幕に向け、ハマスタは大幅な改修工事を行っている。この地で試合が行われる20年の東京五輪に向け、ハマスタは私が、ベイスターズが思い描き、敷いてきたボールパークのレールに乗り続けている。
 希望の種が芽吹き、花が咲く。
 ファンや地域が、ハマスタを横浜のアイコン、横浜の魂にしてくれた。その根をさらに伸ばし、新たな物語を描くのは、横浜DeNAベイスターズだ。常に「空気」を生み出し続けなければ人はすぐに飽きてしまう。大切なのは情熱だ。使命に終わりはない。

>See you again!

(社長就任直前に訪れたハマスタの様子) photo:Jun Ikeda

『BALLPARK』(ダイヤモンド社)

This week’s articles
#01 ベイスターズ時代の私にあった理想と明確なビジョン
#02 閑古鳥がなく昭和の野球場だったかつてのハマスタ
#03 私が蒔こうとしていたのは、「希望の種」だ
#04 ボールパークの視察を通じて還元したこと
#05 情熱があるからこそ人々の心に強く印象付けられる
 

突然ですが、スタジアムアリーナミシュラン、今日を最後に1年が終わります。
予定していたスタジアムとアリーナはこの1年ですべてご紹介できました。
ありがとうございました。
そして、2019年はみなさんにとってもっともっとよい1年になりますように。

池田 純

 

Data

使用チーム 横浜DeNAベイスターズ
所在地 神奈川県横浜市中区
収容人数 28,966人
竣工 1978年
工費 約49億円

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