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#02
閑古鳥が鳴く
昭和の野球場だった、
かつてのハマスタ

 DeNAが横浜ベイスターズを買収すると、まだ正式には発表していなかった2011年10月、私は久しぶりにハマスタ(横浜スタジアム)を訪れた。このとき球団社長に就任することは内々では決まっており、視察も兼ね、最後にひとりのファンとして観ておきたかったのだ。
 野球少年だった頃の憧憬が去来する。
 横浜いずみ野コスモスのチームで野球を楽しんでいた少年時代、ベイスターズの「友の会」会員だった友人たちと地元の最寄り駅から相鉄線に乗り、横浜駅で乗り換え、関内駅までよくハマスタに試合を観に行っていたものだが、数年、いや数十年ぶりにその地に降り立ち驚かされた。
 「あの頃となんにも、変わっていないじゃないか……」
 横浜公園にハマスタが無機質に佇んでいる。周りにベイスターズを感じられる要素はほぼ見当たらない。関内駅から見るハマスタは、コンクリートの白壁、上部が茶色の装飾で縁取られている。
 私の怪訝はそれだけではなかった。
 「なんで茶色? なんでレンガ色?」
 メインゲートに登る通路はレンガの無機質なスロープがあるだけで、左隣には剣道場がどうしても目に入ってしまう。エンターテイメントの施設、ボールパークという趣はほぼ皆無で、言うなれば「ザ・昭和の野球場」。強いてプロ野球チームのホームだというシンボルを挙げれば、正面ゲート付近にホッシーとホッシーナのイラストが申し訳程度に描かれているくらいだ。
 スタジアムの中も、薄暗いコンコースのグッズショップはワゴンを並べただけの露店のような趣だし、トイレだって清潔感があるとは思えなかった。スタジアムの至る所に喫煙スペースがあり、どこか古臭さを感じずにはいられない。オレンジで統一されたシートも、ベイスターズのホームなのに〝ジャイアンツカラー〟を想像させ、チームカラーでスタジアムを彩るようなカラー・コミュニケーションの概念も見受けられない。それらは、1978年の建設当時のままであることを物語っていたし、何より、閑古鳥の鳴いているガラガラのスタンドが物悲しかった。
 だが、不思議と絶望感はなかった。
 「昔と何にも変わっていない」ことは逆に、「これから、どんどん変えられる。一新するくらい変えれば、チームのイメージも与えやすく、ブランドも確立できる」と思ったからだ。

to be continued

(社長就任直前に訪れたハマスタの様子)
photo:Jun Ikeda
This week’s articles
#01 ベイスターズ時代の私にあった理想と明確なビジョン
#02 閑古鳥がなく昭和の野球場だったかつてのハマスタ
#03 私が蒔こうとしていたのは、「希望の種」だ
#04 ボールパークの視察を通じて還元したこと
#05 情熱があるからこそ人々の心に強く印象付けられる

Data

使用チーム 横浜DeNAベイスターズ
所在地 神奈川県横浜市中区
収容人数 28,966人
竣工 1978年
工費 約49億円

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