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#04
秘めているのは
課題ではなく
可能性だ

 フィールドも圧巻だった。
 アメリカンフットボールのみならず、サッカーやコンサート会場としても使用されるだけあって、フィールドを円状に囲むように設えた、約95,000人もの収容を誇る観客席は迫力がある。「ブルーインズ」カラーの青いTシャツやユニフォームを着たファンがスタンドを埋め尽くす。チアリーダーが威勢よく踊り、ブラスバンドの演奏が空に響き渡る。ハーフタイムショーでの趣向を凝らした演出は、プロも顔負けの完成度だ。
 それが、カレッジスポーツの1試合なのだ。繰り返すようだが、それはアメリカの大学が地域コミュニティに根付くことによって、地元ファンが築き上げたものだということを忘れてはいけない。
 ローズボウルを後にした私は、せっかくだからと高校のスポーツも観に行った。そこでも、「やっぱり」と思い知らされたわけだ。
 高校の敷地内にあるグラウンドにはスタンドが設けられてある。日本の高校野球などでも、資金が潤沢で専用球場がある強豪校にはスタンドも用意されているだろう。私のイメージだとそれは、主に「関係者用」であり「地域のみなさん、いつでも見に来てください」といったオープンな感覚ではない。どちらかというと閉鎖的。「学生のスポーツはアマチュアである。必死に練習する姿など、人にみて楽しんでもらうものではない」といった昔ながらの風潮を感じてしまう。
 しかし、アメリカにはもちろんそんな閉塞感はない。地元のおじさんがふらっとグラウンドに来てクラブを見学する。才能ある選手を見つければ声をかけ、「今度、試合を観に行くよ」とコミュニケーションを図る。もし、その選手が大学やプロで活躍すれば、そのおじさんにとって彼は「地元の英雄」となる。
 学生スポーツとプロの溝がある日本は、そういった習慣がほとんどない。
 とりわけ大学の「空洞化」が進んでいるように感じる。野球ならば、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手など、高校のスター選手がそのままプロに行くシステムも原因のひとつなのかもしれない。
 スポーツが地域の文化となる。
 それは、ローズボウルからもわかるように、昔から受け継がれるものであり、そうなるまでには時間はかかる。日本の学生スポーツは、ハード面ではプロ顔負けの施設を作っているところもあると見聞きするようになってきたが、ソフト面はまだまだ未熟なのかもしれない。だが、裏を返せば、今後への可能性を秘めているとも言える。
 「課題」ではなく「可能性」なのだ。
 その捉え方こそが、日本のスポーツ界の間口と思考の柔軟性を広げる根幹なのではないかと、私は考えている。

>> see you next week!


photo:Jun Ikeda

This week’s articles
#01 様々な夢を抱き熱狂してきた歴史ある場所
#02 サプライズは、地域に根付くテールゲート・パーティ
#03 歴史の深さと地元の人たちの関心度の高さを知る
#04 秘めているのは課題ではなく可能性だ
 

Data

使用チーム ローズボウル (NCAA) 
所在地 アメリカ合衆国カリフォルニア州パサデナ
収容人数 92.542人
竣工 1922年
工費 272,198ドル

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